Anonymous〜この世界にいない君へ〜
またアノニマスのことを紫月は考えてしまった。しかし一度考えると止まらない。フレンチトーストを食べながらスマホの電源を入れる。泉翡翠の新作が出版されていた。その新作は、あらすじを見るだけで紫月が顔を顰めてしまうミステリーである。
(休みの日はきちんと仕事のことは忘れるべきだな)
そう考え、フレンチトーストを口に運んだ紫月だったが、電話の着信音が鳴り響く。紫月のスマホが音を立てていた。周りからの視線が突き刺さる。紫月は立ち上がり、カフェの外へと出た。電話をかけてきたのは蓮ではなく、紀人である。彼から電話がかかってくるのは初めてだ。
「もしもし」
一体何だ、と思いながら電話に出る。電話の向こうで紀人は震える声で『太宰』と言った。ただならぬことが起きたのだとわかり、紫月の胸に緊張が走る。
「末広さん。何かあったんですか?」
『……××山を知っているか?』
東京都と山梨県との県境にある山だ。その山で事件があったのだろう。元々捜査一課で働いていた紀人の声が沈んでいるということは、どのような事件なのかは想像がついてしまう。
(休みの日はきちんと仕事のことは忘れるべきだな)
そう考え、フレンチトーストを口に運んだ紫月だったが、電話の着信音が鳴り響く。紫月のスマホが音を立てていた。周りからの視線が突き刺さる。紫月は立ち上がり、カフェの外へと出た。電話をかけてきたのは蓮ではなく、紀人である。彼から電話がかかってくるのは初めてだ。
「もしもし」
一体何だ、と思いながら電話に出る。電話の向こうで紀人は震える声で『太宰』と言った。ただならぬことが起きたのだとわかり、紫月の胸に緊張が走る。
「末広さん。何かあったんですか?」
『……××山を知っているか?』
東京都と山梨県との県境にある山だ。その山で事件があったのだろう。元々捜査一課で働いていた紀人の声が沈んでいるということは、どのような事件なのかは想像がついてしまう。