Anonymous〜この世界にいない君へ〜
「末広さん、遅くなりました。どういう状況ですか?」

紫月が声をかけると、「来たか」と紀人が何かを迷うような表情を見せた。しかし覚悟を決めたように鑑識が作業をしているところを指差す。紫月たちがいるところから百メートルほど離れている。

「通報者はこの山の近くに住む六十代男性だ。犬の散歩コースとしてこの山を使っているらしい。その犬がこの辺りに来たらいきなり暴れ出し、あの袋を見つけたんだ」

鑑識が取り囲んで撮影している袋に紫月は近付く。その袋に何が入っているのかは想像がつく。ゴクリと唾を飲み込み、彼は袋の中を覗き込んだ。

「うっ!!」

吐き気が込み上げ、その場に嘔吐しそうになるのを必死に堪える。鑑識の顔を見れば、誰もがこの凄惨な事件に目を逸らしたがっているのがわかった。しかし、それを必死に堪えて自分たちの職務を全うしているのだ。

袋の中には遺体が入っていた。ただの遺体ではない。遺体はバラバラに切断されていた。







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