Anonymous〜この世界にいない君へ〜

「夢野さんは山をいくつもお持ちですね。他人が自由に出入りできる山なんですか？」

「いえ。山に入る際はどこの誰が入るのか記録を取っています。……それが何か？」

亜美がどこかの山で殺害された可能性があるとは言えず、紫月は言葉を濁しながら質問を続けようとした。その時である。

「親父〜！金貸して〜！」

袴が壊れるのではないかと思うほどの勢いで開き、金髪に耳にいくつもピアスを開けた男性が姿を見せた。学校の制服のネクタイはだらしなく曲がり、スラックスの裾は汚れが目立っている。

「快児！！今父さんはお客様と話をしているんだぞ！！」

泰造が真っ青な顔で怒鳴り付ける。泰造の一人息子である快児は、クチャクチャとガムを噛みながら「そんなの見たらわかるし」と退屈そうに体を揺らしながら言った。

「それより金！今からゲーセン行く約束してんだよね〜」

泰造が舌打ちをし、懐からブランド物の財布を取り出してお札を取り出す。その間、快児は部屋の中にいるアノニマスを見て目の色を変えた。紫月がまずいと思った時には、もうすでにアノニマスの手は快児に取られていた。