Anonymous〜この世界にいない君へ〜
アノニマスのことよりも、今は事件の捜査だと頭を切り替えて泰造の方を見る。泰造は疲れ切った様子で眉間を押さえていた。

「お恥ずかしいところをお見せして、大変申し訳ありません。一人息子のため、甘やかして育ててしまったツケが回ってきたんです」

泰造は深いため息を吐いて、これまで快児がしてしまったことを長々と語り始めた。快児は両親にも祖父母にも「跡取り」と可愛がられて叱られることがなかった結果、クラスメートに気に入らないことがあると暴力を振るい、教師の言うことを何一つ聞かない暴君になってしまったのだという。

「本当に問題ばかり起こして……。もっと厳しく躾ければよかった……」

蓮が困ったような目で紫月を見る。アノニマスは冷めたような目で泰造を見ていた。



泰造の家を出た後、車に乗り込んだアノニマスは無言だった。その横顔は、どこか溢れ出そうな感情を必死に殺しているように見える。アノニマスの手はスカートを強く握り締めていた。

「泉先生、どうかされましたか?」

恐る恐る訊ねた紫月と蓮に対し、アノニマスは低い声で言った。

「最悪な仮説を立ててしまった」
< 43 / 53 >

この作品をシェア

pagetop