Anonymous〜この世界にいない君へ〜

最悪な結末

泰造の所有する山は全部で五つある。一昔前なら彼は大金持ちとして尊敬を集めていただろう。その山に許可を取り、数日かけて捜査員たちが出入りしていた。

「何も物証は見つかりません」

汗を拭いながら蓮が息を吐く。他の捜査員たちの顔にも疲れが見えていた。紫月も息を吐き、「だろうな」と呟く。しかし、頭の中ではアノニマスの立てた仮説が答えなのではないかという思いが強かった。

『あの馬鹿息子、あの銃を持って山に行ったんじゃないか。そして偶然山にいた福沢さんを撃ってしまった。そしてあの親父が息子の罪を必死で揉み消そうとしている』

それがアノニマスの立てた最悪の仮説だった。その仮説を確かめるために、紫月たち捜査員は山に出入りしているのである。

泰造の所有する山のふもとには小さな小屋があり、そこには昼間は雇われた男性がおり、山に入る人間に氏名や連絡先を記入するように呼びかけている。紫月と蓮は、山に捜査に入る際に真っ先にその男性に話を聞きに行った。
< 44 / 53 >

この作品をシェア

pagetop