Anonymous〜この世界にいない君へ〜

「やっぱり亜美さんは山に行かず、どこかで誘拐されて殺害されたんじゃないですか？」

蓮はそう言うものの、亜美の近隣やその周辺にある住宅街で不審者や不審車両の目撃情報は聞き込みをしたものの、皆無だった。

「仮に誘拐されたとしよう。いきなり不審者に襲われたら悲鳴を上げるかもしれない。住宅街で悲鳴を上げれば住民の誰かが異変に気付くだろう。あの時間帯なら、どの家にも誰かはいたはずだ」

紫月はそう蓮に言ったものの、他に有力な仮説など何も思い浮かばない。それは「未解決捜査課」の人間だけではなく、捜査一課の人間も同じだった。

「クソッ！あっちぃ……」

優我が汗を拭い、持参した水筒を勢いよく傾ける。智也もスポーツドリンクを飲み干していた。二人とも、普段は現場にいる紫月たちに嫌味の一つや二つは浴びせるのだが、今回は捜査があまりにも難航しているため、その余裕がないようだ。

「こんなことしやがった犯人、絶対捕まえたいのに何一つ手掛かりなしかよ！」

「……落ち着け。騒いだって証拠が出てくるわけじゃない」