Anonymous〜この世界にいない君へ〜

声を荒げる優我に対し、智也が冷静に宥める。確かに智也の言う通りだ。しかし、優我のように感情的になってしまう気持ちも痛いほどわかる。

殺人事件などの大きな事件は、時間が経過していくほどに解決が難しくなっていく。未解決事件となってしまった場合、警察は世間から総叩きに遭い、遺族は永遠の悲しみと絶望の海に沈んでいくことになる。それだけは何としても避けなくてはならない事態だ。そのため、捜査員たちは焦りを見せるのである。

（一体、どうすれば……）

考え込む紫月の頰を汗が伝う。今日も日中の気温は三十五度を超えている。そんな中でも、捜査員たちは足を止めることはない。未来ある中学生を殺害し、遺体の尊厳を奪うような行為を行った犯人を決して許してはならないのだ。

紫月の頭の中でこれまでの事件を解決した瞬間が蘇る。アノニマスや真夜に借りた力は大きかった。次に亜美の自宅が浮かぶ。亜美の部屋も見させてもらった。ごく普通の女の子の部屋だった。しかし、足りないものが一つあった。