Anonymous〜この世界にいない君へ〜
綺麗に整頓された勉強机、恋愛・青春小説と少女漫画が並んだ本棚、小箱に入れられたアクセサリー、パステルカラーのカーテン、ベッドに置かれたぬいぐるみ。普通の女の子の部屋だった。しかしーーー。

「あれがなかった……」

紫月はそう呟き、スマホをポケットから取り出した。真夜に電話をかける。すぐに電話に出てくれた。

『太宰さん、どうしたの?ゲーム対戦中だから手短にお願い』

「頼みたいことがある」

紫月が依頼内容を伝えると、真夜は大きなため息を吐いた。

『それはちょっと時間かかるよ。電源切れてたら追跡不可能だし』

「でも調べてみてほしいんだ。頼む!」

『……わかった。でも、あんまり期待しないでよ』

真夜はそれだけ言い、電話はプツリと切れる。紫月はこれが最後の頼みの綱であるのではないかと思い、ただひたすら強く祈った。



真夜から依頼に関する返事がきたのは、それから数日後のことだった。一人、部屋で帰る途中で立ち寄ったケーキ屋で買ったミルフィーユを頬張る紫月に電話をかけてくれたのだ。
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