Anonymous〜この世界にいない君へ〜
修二の言葉を紫月はすぐに否定する。修二は紫月にとって憧れの刑事だ。そんな人からの誘いが迷惑などあるはずがない。

「お前は優しいな。時々、刑事の世界にこんな奴がいていいのかと思ってしまうよ」

そう言って微笑んだ修二の目は、どこか寂しそうに見えた。紫月は「娘さんのこと、思い出していますか?」と恐る恐る訊ねた。自殺をしてしまった娘のことを話す時、修二はいつも寂しそうな目をする。

「……あの子のことを思い出さない日はないよ。それはあの子の母親も同じだ。毎晩泣いて悲しんでいる」

例え天寿を全うしたとしても、人の死は誰かに悲しまれるものだ。若く、それも自殺なのだとすれば残された家族は永遠に悲しみの鎖に縛り付けられることになる。疑問がずっと頭の中に残るのだ。

何故、苦しんでいることに気付いてあげられなかったのだろう。何故、悩んでいることを話してくれなかったんだろう。何故、あの子は死ななくてはならなかったんだろう。何故、何故、何故……。永遠に答えのない問いだけが残り続ける。
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