Anonymous〜この世界にいない君へ〜

素早く着替えなどを済ませ、紫月はカフェへと向かった。平日だが街には大勢の人が行き交っている。カフェも混んでいるだろうかと紫月は心配になったが、色鮮やかでどこかポップな可愛らしいカフェは、それほど混雑していなかった。

「いらっしゃいませ〜。何名様でしょうか？」

紫月が店内に入ると、フリルのついたエプロンをつけた可愛らしい制服を来た女性の店員が笑顔で声をかけてくる。紫月は店内を改めて見た。色鮮やかで可愛らしい空間には女性客の姿しかない。

「……一人です」

恥ずかしさを覚えながら紫月は小声で言い、カウンター席に案内された。すぐにフレンチトーストを注文した後、アノニマスを誘うべきだったかと思った。しかし八月のあの出来事が頭に蘇った。アノニマスに告白をし、振られたことだ。

（告白だけならまだしも、あんなことをしてしまったんだから誘えないな。もう会えないのだろうか……）

失恋してしまったというのに、警察官というのに強引に迫ってしまったというのに、紫月の胸は切なく音を立てていく。