眠りの令嬢と筆頭魔術師の一途な執着愛

6 フェインの助言

「戻ったぞ……っておい、一体どうなってんだよ。何があった」

 イヴの行動を探って戻ってきたフェインは、ヴェルデの部屋に入って眉間に皺を寄せた。ヴェルデの部屋の中は物という物があちこちに散乱し、肝心のヴェルデはソファに座り仰向けになって顔を片手で覆っている。

「フェインか。どうだった」
「……イヴは今のところは別段何も怪しいところはないな。兄たちはイヴの言う通りローラを狙ってる。まだこちらの居場所は掴んでないようだけど、時間の問題だろう。そんなことより」

 フェインは床に散乱した本を一冊拾いながらヴェルデを見る。

「ローラのことで躍起になってるのか。イヴはエルヴィン殿下の末裔ではあってもエルヴィン殿下自身ではないだろ」
「そんなことわかってる」
「だったら……」
「それでも!」

 ヴェルデは腕を下ろし体を起こしフェインを睨む。そこには憎悪に塗れた顔のヴェルデがあった。

「ローラはあの男に心を揺さぶられてる。あいつの一挙一動がローラの心をざわめかすんだ。俺にはわかる、まるでエルヴィン殿下に優しくされているかのように戸惑っているんだぞ。俺の前で、俺がそばにいるのに、もうエルヴィン殿下はいないのに……」

 また部屋の中で物がカタカタと揺れ出す。そんな状況に、フェインは静かにため息をついた。

「そうだ、お前の言う通り、もうエルヴィン殿下はいない。エルヴィン殿下の亡霊に取り憑かれているのはローラじゃなくてお前の方なんじゃないのか」

 フェインの言葉に、ヴェルデは両目を見開いてフェインを見る。

「ローラは今、お前と出会って前を向いて生きている。でも、彼女が今まで生きてきた中で過去があるのは仕方のないことだろう。お前はローラの過去まで否定するのか?エルヴィン殿下に愛されなかったローラは確かに可哀想だし、百年も眠り続けることになったなんて悲劇以外の何者でもない。それでも、お前はローラに向き合って彼女の絶望を受け止めようとしてきただろう。そしてローラもそんなお前だから一緒にいるんだろうが」

 フェインが言葉を発すると、部屋の中の揺れがぴたりと止まった。
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