眠りの令嬢と筆頭魔術師の一途な執着愛
(私はいつからこんなに弱くなってしまったのかしら……それとも、強いと思っていた自分は、強がっていただけ?)

 自分を抱きしめたまま静かにため息をつくが、そのため息すら微かに震えている。

(ヴェルデ様はどうしてあんなに、悲しそうに辛そうに、怒っていたのかしら)

 ベッドの端に座りながら、窓の外の月を見つめながらヴェルデのことを思う。ヴェルデの様子がおかしくなったのは、エルヴィン殿下の末裔であるイヴが現れてからだ。

(……きっと、エルヴィン殿下に瓜二つのイヴに動揺していた私のせいなのよね)

 エルヴィン殿下と瓜二つ、しかも声まで似ているのに、性格は全くの正反対なイヴ。そんなイヴにローラは明らかに動揺していた。しかも、そんな相手に、自分の命は百年前から今までずっとエルヴィン殿下の末裔たちに命を狙われ続けていると告げられたのだ。

(イヴだって、私のことを恨んで命を狙ってもおかしくないはずなのに、自分でイライザから掛けられた末裔への呪いを解こうとしている。強い人なんだわ)

 もはやイライザの言葉はイヴたち末裔にとって絡みついて解けない呪いのようなものだ。それを、自分の代で断ち切ろうとしている。一族としての生き方ではなく、自分は自分として生きたいのだと言った時の真っ直ぐな瞳は、嘘偽りのない瞳だった。

 エルヴィン殿下もイヴのような人間だったなら、もしかしたらわかりあうことができたかもしれない。きちんと話をして、時に笑い合い、共に寄り添い歩んでいくことができたかもしれない。エルヴィン殿下とイヴは瓜二つゆえに、どうしてもそう思ってしまう。

(考えても仕方のないことだわ。イヴはエルヴィン殿下ではないのだもの)

 イヴは「自分」として生きたいのだと言っていた。そのイヴにエルヴィン殿下を重ねるのはイヴに失礼すぎる。ローラは瞳を閉じて深呼吸をする。

(私は、ヴェルデ様とこの国で生きていくと決めたのだから。今の私は、もう百年前の私とは違う)

 顔を上げてしっかりと前を向いたローラの瞳は、月明かりの光に照らされてキラキラと輝いていた。

 コンコン

 ノック音にハッとしてローラはドアを見つめる。

「ローラ、入ってもいいかな?」
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