眠りの令嬢と筆頭魔術師の一途な執着愛



「エルヴィン殿下がいた?どう言うことだよ」

 屋敷に帰ると、ちょうど屋敷を訪れていたフェインに会う。フェインに先ほどの出来事を話すと、フェインは盛大に顔を顰めた。

「分からない。だが、あれは確実に……エルヴィン殿下だったんだね?」

 ヴェルデがローラに尋ねると、ローラは両手をぎゅ、と握りしめて頷く。

「あのお顔は……確かに、エルヴィン殿下と瓜二つでした。本人と言ってもいいくらいの……」
「だけど、まだ本人だと決まったわけでもないんだろ。それに、そいつが言っていた言葉も気になる」

——兄貴たちがローラ姫の命を狙っている。

 エルヴィン殿下本人ではなく、その兄たちが命を狙っているというのはどういうことだろうか。それに、エルヴィン殿下は当時第一王子で長男だ。異母兄弟で兄がいるというのは聞いたことがない。

 ローラに気づいた時の表情もおかしかった。まるで信じられないものを見るような、でも初めて目にしたとでもいうような不思議な顔をしていたのだ。

「あの商人たちについて調べる必要があるな」
「俺も協力するよ」

 ヴェルデとフェインが真剣に話をしているが、ローラは二人の会話が聞こえているようで聞こえていない、まるで耳が聞こえなくなったかと思えるほどに静寂に包まれていた。
 その静寂がさらにローラを恐怖に陥れる。目の前には最愛のヴェルデがいて、頼れるフェインもいる。それなのに、不安で怖くてたまらない。ローラは両手を握りしめたまま、ぎゅっと両目を瞑り俯いた。

「ローラ」

 ふわっ、と肩に温かさを感じる。静寂が破られ、聞き慣れたはずの優しいその声にハッとして顔を上げると、心配そうな顔のヴェルデがローラを覗き込んでいた。

「ヴェルデ、様……」

 ローラが乾いた声で名前を呼ぶと、ヴェルデは優しくローラを包み込んだ。そしてふわりと温かさがローラに静かに浸透していく。さっきまで冷え切っていた心と体が、だんだんと暖かくなっていくのがわかって、ローラはヴェルデをぎゅっと抱きしめ返した。

「大丈夫、俺たちがいるから。どんなことからもローラを守り抜いてみせるよ。だから、安心して」

 静かに、優しいその声音に、ローラはさっきまであった不安と恐怖が嘘のように消えていくのを感じた。
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