眠りの令嬢と筆頭魔術師の一途な執着愛
「あんた、きっと随分と苦しんだんだろ。百年も眠ってたのに、急に起こされて気がついたら家族も友人も誰もいないなんて。しかも婚約者に命まで狙われていたなんて知ったら正気でいられるはずないだろ。……俺の先祖がしでかしたこととはいえ、なんていうか、あんたが俺の顔を見て怯えるのも当然だろうなと思う」

 イヴの言葉に、ローラは思わず両目を見開いた。エルヴィンの顔でエルヴィンと同じ声をしたこの男は、自分を労わるようなことを言っている。
 エルヴィンだったら絶対に有り得ないことだ。当時エルヴィンとちゃんと会話ができたらと思っていたローラは、目の前の光景に戸惑い、心が追いつかない。

 ヴェルデと繋がれた手を無意識に握ってしまっていたのだろう、ヴェルデがそれに気づいてローラの顔を見て、苦しそうに顔を歪ませた。

「俺は、兄貴たちとは違ってローラ姫を狙うことはしない。兄貴たちにもこのことを言うつもりは毛頭ない。……ローラ姫はきっと今、幸せなんだろうからそれを壊すようなことはしたくないんだ」

 ヴェルデを見てからそう言うイヴ。フェインはなるほどな、と静かに呟いてヴェルデを見る。ローラの顔を見ていたヴェルデはハッとして、イヴを見た。ローラはいまだにイヴの顔を見たまま硬直している。

「俺の話はこれで終わりだ。他に、聞きたいことは?」
「……あなたの兄たちは、いつまでこの国に滞在するつもりですか」
「行商の期間が終われば俺は帰るつもりだ。でも、兄貴たちはきっとローラ姫の居場所を突き止めるまでいるつもりだろうな」
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