ファミリア・ストレンジャー㊤【完】
助けてくれたのに、あんな風に手を振り払われて、怒らない奴がいるはずない。

だって、ああ言うのは見返りを前提にできる行動だから。

トラはあたしを助けることで、あたしに感謝の言葉を貰えると思っていたに違いない。

だけどあたしは感謝どころか、トラの手を振り払いその場から逃げ出したのだ。

トラに何のお礼も言わず、あたしはトラに背を向けた。

怒らないはずがない。

「ほら、行くぞ。乗れよ」

「……」

みんなの言うトラが優しいって、こういうことなのかもしれない。

終わったことをぐちぐち言わず、こんなあたしを気にして構ってくれる、その行為が優しいのかもしれない。

そう思うと、いつまでも一人で昨日のことを気にしている自分が馬鹿馬鹿しくなってきて、本人が気にしていないのだからあたしも考えるのをやめた。
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