海よりも深くて波よりも透明
「おい、穂風。寝てんぞ」



声をかけると、また動き出すが、そのあとすぐにウトウト…。



仕方ないから、穂風から歯ブラシを奪って磨いてやる。



なんで彼女の親の前でこんなことしてんだ俺…。



「ほら、口ゆすいでこい」



穂風に歯ブラシを返す。



穂風はコクンと頷いて立ち上がってまた洗面所へ消えていった。



「世話かけるね」

「いえいえ…」

「夏葉、あんたせっかくだし泊まってけば?」



そよ子さんが急に言い出した。



「え!? いやいやいや、帰りますよ!」

「いいじゃんたまには。明日仕事ある?」

「いやまあ夕方ちょろっとあるくらいっすけど…」

「じゃあいいじゃん」



そのタイミングで、うがいの終わった穂風が戻ってきた。



さっきより目が開いてる。



穂風、助けてくれ…。



そう思ったのに、穂風は俺の期待とは正反対。



「夏葉泊まるの!?」

「いや…」

「えっまじで嬉しい! ママ! 夏葉あたしの部屋でいい!?」



おーい…。



穂風さん、さっきまでの眠気はどこへ…。



急にめちゃくちゃ元気じゃねえか…。



「いいわけないでしょ」

「ケチ…」



俺を置いて勝手に話しが進んでいく。



彼女の実家に泊まるのは気まずすぎるので勘弁してほしい。



ちらっと龍臣さんを見た。



娘の彼氏が家に泊まるの、普通に嫌だよな?



だけど、龍臣さんはソファから立ち上がり、「ゆっくりしてけ」と俺に言ってリビングを出て行った。



まじっすか…。



そのまま逆らうことができず、現在、1人見慣れぬ部屋の布団に寝ている俺。



まあ、彼女の両親に気に入られてるのはシンプルに嬉しい。



スマホをいじっていたらコンコンとノックがあった。
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