海よりも深くて波よりも透明
そして、次の日はいよいよ決勝。



会場も盛り上がっている。



カメラの台数や客の数も増えてて。



そんな中、穂風は海の上で軽くウォーミングアップ。



ウォーミングアップでも軽々と大きい波に乗る穂風に客席から歓声が漏れる。



やるねえ…。



そしていよいよ大会が始まった。



穂風のヒート(※サーフィンの大会で、同じ波に乗る選手の組み合わせのこと)は最後の方。



奇しくも穂風と愛姫は同じヒートだ。



穂風の感じてるプレッシャーは愛姫の存在も大きいんだろう。



穂風たちのヒートがはじまり、ファインダー越しに穂風を覗いた。



しっかりとしつつ、若干緊張した顔で、耳たぶのピアスに触れている。



全員一斉に海に入った。



まず最初に波に乗ったのは愛姫。



まるで魔物に飲み込まれそうに、チューブ(※巻いている波のこと)の中に入る愛姫。



魔物なんかに捕まってたまるか、とでも言うように、愛姫は軽々とそれをすり抜けていく。



愛姫のサーフは鬼気迫るものがあって迫力がある。



俺はできるだけその迫力をレンズに収めて。



そして穂風も波に乗り始めた。



波に乗った穂風は堂々としてて。



さっきまでの緊張がなかったかのようで、晴れやかな顔をしている。



穂風のサーフは、愛姫とは反対だ。



波とじゃれ合うように、まるで古くからの親友みたいに。



とにかくシャッターを切った。



俺が、サーフフォトグラファーをやっていて良かったと思う瞬間。



選手によってこんなに色があって美しい。



それに、穂風がやっぱり今までで一番調子が良いんじゃないかと思う。



俺個人の私情抜きにしても、穂風がその場で一番輝いて見えた。



そして、そのヒートが終了した。



最後は結果発表…。



遠くにいる穂風の顔をちらっと見た。



固い表情でじっと結果発表のモニターを見てる。



そして—
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