海よりも深くて波よりも透明
部屋に戻った。



バスルームからシャワーの音が聞こえる。



バスルームの扉をそっとあけた。



夏葉があたしに気づく。



「うおっ、びっくりした。おかえり」

「あたしも入っていい?」

「俺もう出るぞ」

「じゃあ部屋で待ってる」



そう言って部屋のソファで待ってたら、首からバスタオルを垂らした半裸の夏葉が出てきた。



備え付けの冷蔵庫を開けて水を飲む。



様になる…。



夏葉がもう一本水を持ってあたしに手渡してくれる。



それを開けて飲むあたしの隣に、夏葉がどっかりと腰を下ろした。



やっぱ夏葉といると安心する。



「で、浮気者のお嬢さん? カイには何も変なことされてねえよな?」

「…すみません、一瞬抱きしめられました」

「は?」



夏葉は眉間に皺を寄せ、めちゃくちゃ怖い顔。



「…殴りに行くか」

「あたしがもう殴った!」



あたしがそう言ったら、夏葉は一瞬きょとんとしてから大きく笑った。



そんな笑う!?



「さすが穂風。良い女」

「う~…。でも、抱きしめられたのはごめん」

「どういう状況かよく分かんねえけどお前悪くないだろ。とりあえず浄化させろ」

「はい!」



夏葉にぎゅっと苦しいくらい抱きしめられた。



あたしもぎゅっと抱きしめ返す。



夏葉の腕の中にいるだけで幸せ。



それから、夏葉があたしのおでこに、鼻先に、そして唇にキスを落とした。



そして顔を離す。
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