海よりも深くて波よりも透明
中尾さんは穂風には変な態度取ったりしねえけど、なんか嫌な感じだな…。



警戒しとこ…。



「穂風ちゃん、世界大会最終日の映像見たぞ~。やっぱ穂風ちゃんの波乗りはまじで最高!」



中尾さんが俺の隣に座り、俺を無視するように、俺を挟んで穂風に話しかけた。



「穂風ちゃんが小せえ頃から穂風ちゃんのサーフ見てるし。良い乗り方するよなー。段々うまくなってるし。やっぱ岩崎龍臣の娘なだけあるわ!」



穂風は笑顔のまま何も言わない。



絶対キレてる…。



岩崎龍臣の娘とか、穂風が一番言われたくないやつだ。



中尾さんはそんな穂風には気づかないまま、愛姫の方を見る。



中尾さんと愛姫は恐らくそこまで面識がないはず。



「島田愛姫も良かったけど、やっぱロングなら穂風ちゃんみてえな乗り方が良いよな~」

「…」

「島田愛姫は迫力あるけど、迫力だけっつーか…。やっぱ魅せる力でいうと穂風ちゃんの方が上」



はあ?



何だそれ…。



あまりにも失礼すぎる発言に、その場はドン引き。



つーか何様…?



愛姫を見るとヘラヘラしてる。



愛姫はこういう外野のコメントは気にするタイプじゃねえけど、聞いてるこっちとしてはさすがにあり得ねえ…。



「中尾さ…」



俺と穂風が反論するために口を開いた。



でも、それよりも早く…



「俺、愛姫のサーフすげえ好きっすけどね。かっこいいし。魅せる力とか抽象的すぎるし中尾さんちょっと価値観狭いんじゃね?」



悠星がそう言い放った。



いつもみたいに空気を読まない発言。



その場が一瞬しんとする。



さっきまでヘラヘラしてた愛姫も、ちょっとびっくりした顔をしてて。



「んだとガキ!」



中尾さんが悠星にキレた。



あーあー、同じローカルには優しいと定評の中尾さん、ついに悠星にキレちゃったよ…。



まじでめんどくせえ…。
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