海よりも深くて波よりも透明
でも、そんな中尾さんの頭を、ゲンさんがコツンと叩いた。



「ここで喧嘩すんなよ。周りの迷惑考えろ」

「でもコイツ俺に生意気言いやがったし!!」

「お前が愛姫ちゃんに失礼すぎんだろうが。愛姫ちゃんに謝んな」

「は? 訳わかんないっすよ! 俺なんかまずいこと言いました!?」

「分かんねえなら出てけよ」



ゲンさんの強い圧。



イライラした様子の中尾さんは、ゲンさんに圧倒されたのか、舌打ちをしてから店を出てった。



「ゲンさんかっこい~!」

「Thank you ゲンさん~」



中尾さんがいなくなったあとの店内で、穂風と愛姫がゲンさんをはやし立てる。



ゲンさんは少し照れたようにはにかんだ。



「嫌な思いさせちまって悪かったね」

「ゲンさんなんも悪くないじゃん! 中尾さん、今日のはさすがに失礼すぎた!」

「はあ~…。あいつは、どうしたらあの性格直せんだろうね」



それは難しい問題だ…。



俺も、ここに来てもう7,8ヶ月経つのにいまだに嫌な対応されるし。



「でもあたし達もそろそろ帰ろっか? 時間も時間だし」

「そうだな。ゲンさん、お会計」



俺がそう言ったら、ゲンさんは首を振った。



「今日は嫌な思いさせたし、穂風ちゃんも愛姫ちゃんも悠星も、3人とも世界大会祝いで、ついでに夏葉も会計にチャラにするよ」

「まじっすか? いいの?」

「ん。これに懲りず、また来てちょうだいね」

「ゲンさんまじ感謝~…。また来ます!」



4人で店を出た。



10月も終わりにさしかかった夜の海辺は冷える。



「帰る前にコンビニ行っテイイ?」



愛姫がそう言うので近くのコンビニへ向かう。



でも次の瞬間、愛姫が「サンダル…コワレタ!」と叫んだ。



見ると、愛姫が履いてるサンダルの紐の接続部分が見事に底から剥がれてる。



どう見ても直せる状態じゃないし歩ける状態でもない。



「アハハ! やばいネ! これじゃ歩けないしコンビニ大丈夫~。帰ろう!」



愛姫が笑いながら言う。
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