海よりも深くて波よりも透明
2人が出て行ってから、俺の左側に座る穂風を引き寄せる。



顔をこっちに向けてから軽くキスした。



穂風がにっこり笑って、俺の膝の上に乗る。



左手で軽く抱きしめた。



「腕痛い?」

「んー、割と平気」

「早く完全に治るといいね。海行って夏葉いないと寂しいし」

「俺も早く海行きてえなー。変なやつに絡まれてねえか?」

「サーフィンしたいからじゃなくてあたしのナンパが心配なのー?」



サーフィンはしてえけど、同じくらい穂風が心配なんだよ。



まじで俺、変わったな…。



嫉妬とかそういうの一切しねえから「愛されてる感じがしない」って言われて別れたこともあるくらい。



自分では今までの彼女のこと好きなつもりでいたけど、本気で好きになったことって実は1回もなかったんだろうな…。



つまり、穂風が初めて本気で好きになった女ってことだ。



そう思うと余計に愛おしい気持ちが増して、一層強く抱きしめた。



穂風が不思議そうに俺のことを見上げながら笑った。



しばらくイチャついてたら、リアルと郁が帰ってきた。



「だいまー。カレー作る~」



そう言ってキッチンに立つ2人。



包丁で野菜を切ってる郁を横からリアルがのぞき込む。



よく分かんねえことで2人で爆笑してる。



やっぱ仲良いな…。



そんな2人を、穂風とぼーっと眺めてたら、カレーが出てきた。



普通にうまいカレーを食べ、リアルと郁はきっちり洗い物までして、ようやく帰る支度。



「じゃあね~、お邪魔しましたぁ~」

「また来るな~」

「おー、来なくていいぞ~」



玄関先に立つ2人に片手をひらひらさせて見送る。



玄関のドアを開けると、夜の冷えた風が室内に入る。



「さむっ」



家を出ながらリアルが言う。



「俺の上着着る?」

「え?神?」



そんな会話をしながら家を出て行った2人に、俺と穂風は顔を見合わせる。



「何なんだろうね、あの2人」

「な」

「いつか付き合ったりとかすんのかな」

「そういう感じでもなかったけどな」



まあ俺には関係ない。



穂風を軽く抱きしめながら家の中に戻った。



まじでムラムラする…。



この腕じゃなければ…。



俺、我慢ばっかりしてねえか…?



あああ、頭おかしくなりそうだ…。
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