海よりも深くて波よりも透明

冬の渚はあたたか

~夏葉~

12月に入り、俺の腕もすっかり良くなった。



そして、それとほぼ同時に、アジア大会がはじまった。



今回の開催地は台湾。



俺が去年まで働いていたところ。



現地には当然、俺のよく知ってるサーファーも多くいるわけで。



「夏葉! 好久不見!(久しぶり!)」

「美玲(メイリン)、好久不見呢(久しぶりだな)」



現地のサーファーの美玲(メイリン)とそんなやりとりをしてると、明らかに不機嫌な顔で横から見てくる穂風…。



自分の知らない言語で、自分の彼氏が現地の女と会話してるなんて面白いわけねえもんな…。



しかも、穂風には言ってねえけど、コイツと何回か関係持ったことも…。



絶対穂風に言えねえ…。



「(この子、夏葉の彼女?)」

「(まあ…。余計なこと言うなよ?)」

「(余計なことって? あたしと夏葉がセックスしたこと?)」

「(おい!)」

「(華語わかんないでしょ?)」



そういう問題じゃねえって…。



しかもこんな2人だけで長々と喋ってたら穂風が…。



ってちょっと待て!



「穂風…ちゃん? 何してるんですか?」

「翻訳アプリ」



穂風のスマホの画面に『私とナツハがセックスした』の文字…。



おい!



「夏葉」

「はい…」

「最低!」



何も言えねえよ…。



「信じらんない! このくそチャラ男!」

「んな言い方なくね!? 若気の…至り?」

「最悪!」



そう言って穂風が逃げた。



まっ…。



逃げ足早いし…。
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