海よりも深くて波よりも透明
結局、持ってきたもう一本の板を使って練習を続けた。



ウェットスーツは破れたままで寒すぎるので、早めに切り上げる…。



「夏葉、暖房マックス!」

「はいはい…」



帰りの車の中でまだ不機嫌な穂風。



宿に着いた瞬間、「内風呂だー!」と上機嫌になった。



和室についてる露天風呂。



部屋の障子を開けると風呂が丸見えだ。



「入ろ入ろ!」



そう言いながら着ているウェットスーツを脱ぎ捨てて風呂場に走って行った。



ったく…。



シャワーを浴びた穂風は、湯船に浸かって俺に手招き。



自由な姫だな…。



穂風の脱いだ、破れたウェットスーツと水着をハンガーにかけてそれをシャワーで洗い流す。



「いいから早く夏葉もこっちおいでよ~」

「待てって…」



湯船のヘリに顔をつけて俺を見る穂風。



俺もシャワーを浴びて、穂風の待つ湯船に浸かった。



お湯が湯船からあふれ出る。



「気持ち~ね~」



穂風がそう言ってニコニコ笑う。



こいつはなんでこんな可愛いんだよ…。



まじでガキくせえのに…。



「夏葉のタトゥーおしゃれだよね」



穂風が、俺の足首にあるタトゥーをなぞって言う。



くるぶしの辺りから少し上に伸びて彫ってある、草のデザインのタトゥー。



「あたしも彫ろうかな」

「痛えからやめとけ」

「やっぱり?」



言いながら穂風が俺に乗ってもたれてきた。



穂風の髪をかき分ける。



穂風が俺の顔を振り向いて見つめ、キスをして。



穂風の手を軽く触りながら何気ない会話をする。



ぬるめの外気が心地よい。
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