海よりも深くて波よりも透明
その日の夜、寝ていたら、穂風から電話がかかってきて目が覚めた。



時間を見たら深夜の1時半。



「どうした…?」



寝起きの声で俺が聞く。



≪…今からそっち行っていい?≫



穂風が小さい声でそう言う。



俺はその声で完全に目が覚める。



今から?



こんな遅え時間に?



「いいけど…。どうした? 寝れねえの?」

≪うん、まったく…≫

「わかった。俺車で迎えに行くから家で待ってろ」

≪ありがと…≫



なにが穂風をそれほどプレッシャーにさらさせるんだろう。



去年の夏の合宿で、そよ子さんが穂風に『順位に縛られるな』と言っていたことを思い出す。



そよ子さんが言っていたのはきっとこういうことだろう。



順位に縛られて、自分の力を出し切れない…みたいな。



そんなことを考えながら、車を走らせ穂風の元に行き、家まで連れて帰った。



「ちゃんと俺んちいるって連絡しろよ」

「わかってるよ」



穂風は、落ち込んでいるというよりは、落ち着かなくて眠れないらしい。



「寝てたのにごめんね」

「全然いいけど。もう寝るぞ~」

「はあい」



電気を消して、穂風を包み込むようにして眠る。



穂風は俺の胸に顔をつけていて、かすかに匂いを嗅いでいる。



穂風の鼓動を聞きながら、お互いに眠りの世界へ落ちていった。
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