海よりも深くて波よりも透明

風クローズ

~夏葉~

世界大会から一ヶ月。



穂風は相変らず練習に打ち込んでる。



というか、やはり焦って見える。



頻繁に大学をサボって練習に行ってるらしく…。



「おい不良娘」

「なにが?」

「今日授業あんだろ」

「きゅ、休講だもーん…」



嘘つけ…。



いったい一ヶ月に何回休講あんだよ…。



「いいじゃん、レポートさえ出せば単位取れるって」

「はあ…。お前なあ…」



やることはちゃんとやる奴だったのに…。



そんな適当にしてたらぜってえ穂風のためになんねえよ…。



注意すると怒るし。



「あのなあ…。お前最低限のことはやれよ」

「もううるさい! 単位取れれば十分でしょ!?」



ほら…。



穂風の両肩に腕を回して引き寄せた。



穂風の髪を軽くかきあげる。



「お前がサーフィンに一生懸命なことはすげえ良いことだと思う」

「…」

「でもな? 自分が、サーフィンやりながら大学で勉強するって決めた以上、それは守らねえと、将来の自分のためになんねえよ?」

「だって大会あるし…」

「別に勉強漬けになれっつってんじゃねえの。授業だけは出て集中してちゃんと勉強して、そっからサーフィンにも打ち込む。自分で決めたこと守ってメリハリつけてやってかないと、これからどんどん中途半端な人間になるし、自分にも返ってくるからな?」

「自分だって中退したくせに…」

「だからこそだ。あのとき俺は、大学やめて台湾に行く選択をした。穂風はどうすんの? 休学するとか、辞めるとか。なんでもいいけど、中途半端なことだけはすんな」



穂風は少しうつむいてから、「わかった…。授業、ちゃんと行くようにする…」と言った。



俺はそんな穂風の頭を撫でる。



それから、穂風に目線を合わせた。
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