海よりも深くて波よりも透明
「おつかれ」

「夏葉! おつかれ~」

「良い調子じゃん」

「当たり前でしょ」

「ははっ。そりゃそうだ。なんか食い行く?」

「うん、お腹空いた。奢ってね」

「あいよ」



穂風と2人で飯を食って。



穂風を抱きしめて眠って。



いつも通りに過ごす。



2日目の3回戦。



男子からはじまったが、悠星はぎりぎりのところで敗退した。



あと一歩で準々決勝だったが、少し点が足りず。



試合後、取材エリアで記者に囲まれた悠星は、次に向けて頑張ると言っていた。



次は女子の3回戦。



穂風は物凄く綺麗に波に乗る。



間違いなく輝いて見えて。



さすがだ。



あれだけ余裕がなさそうだったが、穂風にはこれだけの実力があると感じさせる波乗り。



得点も、3回戦目の出場選手の中で一番高くて。



穂風的にも満足のいく波乗りが出来た様子だった。



すげえ誇らしい。



だけど…。そのあと問題が起きた。



その後、取材エリアで記者に囲まれる穂風。



「自分の力を出し切ることができました。この調子で優勝まで走ります」



一通りインタビューに答えて取材エリアを抜けようとしたとき、



「今年の世界大会では、最近勢いを増してきている杉下選手に日本首位を譲ってしまいましたが、新たな強力ライバルとなった杉下選手に対してどう感じていますか」



1人の日本人の記者が穂風にそう問いかけた。



穂風の顔が一瞬凍った。



このままじゃ…穂風がやばい。



心がざわついた。



「…私は私の力を出すだけです。お互いに切磋琢磨できて良い影響を与え合えたらいいと思います」



笑顔でそう言って、穂風は会釈をしてから取材エリアを抜けた。



穂風のギリギリのプライド…。



大会が終わり、ホテルに戻った穂風の元へ行った。
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