海よりも深くて波よりも透明
「夏葉」

「おつかれ。良い試合だったな」

「ありがと。一緒にお風呂はいろ?」



あまり明るくない表情の穂風。



今日は良い結果だったのに。



それよりも、あんなインタビューで簡単に動揺してしまう穂風の今の精神状態…。



穂風と一緒に風呂に入る。



いつも以上によく焼けた肌は、穂風がどれほど海の上にいたかを物語ってる。



こんだけ頑張ってるのに、それが確固たる自信に繋がっていないのか…。



口数の少ない穂風の頭を洗って、一緒に湯船に浸かった。



穂風は俺にぴとっとくっついている。



ここまで普通じゃない穂風ははじめてかもしれない。



「夏葉…」

「ん?」

「なんかすごい…ざわざわするの」



穂風が不安げな声でそう言った。



俺の胸に顔をつける。



俺はそんな穂風を静かに抱きしめた。



「すげえ調子良かったのに?」

「うん。なんでだろうね…。不安感がすごく強いの」

「あんだけ練習してんだから、誰がどう見てもお前は大丈夫だよ」

「そう…かもしれないけど」



穂風の表情は晴れない。



「顔あげて」



俺の方を見た穂風の唇に一瞬キスをした。



そしてまた抱きしめる。



あやすように背中をトントンとそっと叩く。



「夏葉といるとほっとする…」

「それは何より。明日も一緒に大会出るか~」

「あははっ。最高だねそれ」



穂風の顔に笑いが戻った。



このまま明日も何事もなくいつも通りの穂風でいられるといいが…。
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