海よりも深くて波よりも透明
いつの間にか怒ってたのも忘れて、満足するだけ服を買った。



モール内をふらふら歩いてると、夏葉に似合いそうなメンズショップ。



「夏葉夏葉」



夏葉を呼び止めて、店頭の服を夏葉に当てる。



ラフなTシャツだけど夏葉に似合いそう。



すると、突然「あれっ、穂風ちゃん?」という男の人の声が店の奥から聞こえた。



ん…店員さん?



って…。



「わ、圭吾(けいご)さん!」

「やっぱ穂風ちゃんだ。うわ、どうした? 偶然じゃん」



サークルの2個上の先輩の圭吾さんだった。



そういえば服屋でバイトしてるって言ってたかも!



夏葉があたしに『誰?』という視線を向ける。



「あっごめんね、こちら、サークルの先輩の圭吾さん。3年生」

「あー。穂風がいつもお世話になってます。彼氏の夏葉です」



なんかサークルの先輩に夏葉のこと紹介するのって不思議な気分。



『穂風がいつもお世話になってます』って、俺のものって言われてるみたいで嬉しい。



「穂風ちゃんめっちゃ大量に買い物してんじゃん」

「そうなんですよ~。気づいたらこんなになってました」

「やばいね。次サークル来たとき楽しみじゃん」



なんて会話をしてたら、夏葉に「穂風、人」と急にぐっと引き寄せられた。



あたしの脇からお客さんが通る。



「あ…すみません」



そう言ったものの、スペースもそこそこあるし、そこまで引き寄せる必要あった…?



もしかして嫉妬 ?



あたしと圭吾さんが仲良さそうに会話してるのが気に入らなくて?



かわいい!



さっきまでと完全に立場が逆だ。



夏葉の表情を見ると普通。



あたしは夏葉の腕を軽く取った。



「圭吾さん、このTシャツ買いたいんですけどいいですか?」

「ん、ありがとー」



夏葉の腕を掴んだまま、レジでお会計を済ませる。
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