海よりも深くて波よりも透明
銭湯には人がまばら。



広い湯船に浸かっていると、身も心もほぐれる気がする。



浴槽でリラックスしてると、女湯から声が聞こえた。



「お嬢ちゃん、よく焼けてるねえ」

「へへ、そうなんですよ~」

「健康そうで良いわねえ」



穂風だ…。



おばあさんと話してるらしい。



なんだか楽しそうに会話してる。



こういう時間もなんか良い…。



しばらくその声に耳を傾けて、風呂から出た。



一時間後、銭湯のロビーで穂風を待ってると、ほてった顔の穂風が出てきた。



「お待たせ」

「なんか楽しそうに喋ってたな」

「聞こえてたの!?」

「銭湯って隣まで声響くんだよ」

「恥ずかし…」



俺はそんな穂風に笑いつつ、飲み物コーナーまで連れて行き、「どれにする?」と聞いた。



コーヒー牛乳を選んだ穂風にそれを買ってやる。



俺はビール。



2人でそれを飲みながら歩いて家まで帰った。



「銭湯楽しいね、また行こ」

「おー」

「でも給湯器も直してね?」

「はいはい」



そんな会話をしながら家に着き、飯を食って、一休み。



まじで平和な休日だ…。



今日はこのまま何もしなくても十分かもしれない。



適当についてるテレビを2人で見る。



俺にもたれた穂風が手元にあるチョコに手を伸ばした。



取引先からもらった外国のチョコ。



「ちょーだーい」

「ん」



包装紙を向いて穂風に食わせてやる。



俺の指ごと食った穂風は「あっま!」と顔をしかめた。
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