海よりも深くて波よりも透明
「この方も知り合い?」

「あ、そうなんです。彼氏の夏葉です」



あたしがそう言うと、夏葉が「どうも」とぺこっとお辞儀をした。



「まじ!?」



驚いたみんなが集まってきた。



「なになに、どういうつながり?」

「あたし、実はサーファーで…。夏葉はサーファー専門のカメラマンで」

「サーファー!?」



はじめて聞くあたしの情報にみんな驚きが止まらないらしい。



あたしは、ずっと隠すようにしていた『サーファー』というあたし自身を出すことができて、ちょっと心が軽くなったような気分。



と、悠星くんがまたそこでぶっ込んできた…。



「知らないんすか? 穂風、かなり有名なサーファーっすよ」

「えっ、そうなの!?」

「世界選手権でゴールド何回も取ってるし。日本で一番実力あるサーファー。今休んでるけど」

「言ってよ~!」



みんながかなり興奮した顔であたしに詰め寄った。



あはは…。



あたしは苦笑しながら夏葉に視線を送った。



夏葉はすでにあたしの顔を見ていて、優しく微笑んでる。



キュン…。



それから、撮影に行ってしまった夏葉たち。



あたしたちは、バーベキューの片付けをしてから、海の方へ。



先輩たちが率先して波に足をつけにいく。



楽しそうに足で水を蹴って掛け合ってる。



「おいでよー」



先輩たちの声に、あたしも靴を脱ぎ、そっと水に素足をつけた。



冷えた水の感覚が、夏の熱した肌に心地よい。



絶えず波のさざめきがあたしの足を濡らしていく。



久しぶりの…海の感覚…。



身体がすーっと海に溶け込んでいくのを感じる。



あたしの…居場所…。



気づいたら目から涙がこぼれてて。



みんなにバレないように、慌てて顔を逸らした。



視界の中に、少し遠くにいる夏葉が入り込むと、目が合った。



なんだか、あたしの心がそのまま夏葉に伝わっている気がした。
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