海よりも深くて波よりも透明
数日後。



あたしは1人、夏葉が仕事をしている海へ。



1人で海に来るのは本当に久しぶり。



ちょっと怖くてドキドキする。



浜辺で立ちながら、海に入って撮影してる夏葉をじっと眺める。



しばらくして、海から上がってきた夏葉。



あたしを見つけて驚いた顔をしながら駆け寄ってきた。



「どうした!?」

「夏葉…あたしね」

「ん」

「まだ、サーフィンはできないけど…。海…戻りたい」

「…そうか」



そう言ってあたしのことをそっと抱きしめた。



さっきまで海に入っていたので、海水があたしの服を少し濡らす。



視界に、さっきまで夏葉が撮影してたサーファーさんが入ってきた。



「夏葉、あの人忘れてない…?」



夏葉が「あ」と一瞬身体を止めた。



それから振り返って、「すみません…」と謝る。



サーファーさんはケラケラと笑いながら「俺もう一乗りしてくるわ~」と行ってしまった。



気を遣わせてしまった…。



あたしにもう一度向き直った夏葉は、あたしの頭を左手でかき上げた。



「穂風が海に戻ってくれんの、まじ嬉しい」

「心配かけてごめんね?」

「むしろ心配できる立ち位置にいられることが嬉しいわ」



そういう夏葉が嬉しすぎて、自らぎゅーっと抱きしめた。



「で? とりあえず何するつもり?」

「どうしようね…海水浴?」

「ボディボードは?」



ボディボードか…。



小さいときパパとよく一緒にやったけど。



たしかに、ありかも。



気楽にね。



家に帰ったあたしは早速ボディボードを探す。



最後に使ったのもう何年も前だしどこにあるっけ…。
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