海よりも深くて波よりも透明
「ねえママー? ボディボード知らない~?」

「あんた海戻るの!?」



庭で花に水をやってたママが驚いた声で飛んできた。



手にじょうろ持ってる…。



いつも冷静で頭いいママがそういうの珍しい…。



口には出さないけど、それほど心配されてるってことだ…。



「ボディボードやんの?」

「うん…遊びでやってみようかなって」

「いいじゃん」



ママはそれ以上なにも言わなかった。



代わりに、「板ならあっちの物置だよ」とじょうろを持った手で場所を教えてくれる。



ママにお礼を言ってボディボードを取りに行く。



黄色のボディボードは、サーフボードと違って小さくて軽い。



触るのもめちゃくちゃ久しぶりだ。



楽しみになってきた!



次の日、お休みの夏葉と一緒にボディボードを持って海へ。



知り合いのサーファーが集まってきた。



「穂風ちゃん、ボディボードやるの!?」

「うん、海戻ってきました~」

「おかえり!」



みんな暖かい…。



夏葉が優しい顔であたしのことを見てる。



とりあえず…海だ!!



ドキドキしながら、海へ足を踏み入れる。



徐々に身体が海に沈んでいく。



久しぶりに着た水着が海水をぐんぐん吸収する。



気持ち良い…。



身体が、海にただいまを告げ、喜んでいるのを感じた。



板に身体を乗せて、ヒレをつけた足で漕いでく。



今日の波は穏やか。



一本来た波。



乗ろうとして、一瞬身体がこわばり、見送ってしまった。



そのすぐあとに来た波に、うしろから夏葉がサーフボードで綺麗に乗っていく。



夏葉のサーフィン、久しぶりに間近で見たかも…。



なんだかすごくかっこよく、輝いて見えた。



あたしも波に乗りたい…。
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