海よりも深くて波よりも透明
2ヒート目に入った。



2ヒート目には杉下真恋がいる。



杉下真恋はそこまで特徴のある乗り方はしないが、フォームがすげえ綺麗。



練習をたくさんしてるんだろうと感じる乗り方。



今回もかなり調子が良さそうだ…。



それから穂風がいるヒートになった。



レンズを覗く肩にもぐっと力が入ってしまうのを感じる。



リアムが何気なく俺の肩をポン、と叩いた。



そうだよな、俺が緊張してどうする…。



穂風が波に乗り始めた。



表情まではこちらからは見えない。



でも乗り方はいつもよりもちょっとカタいような…。



それでも相変わらず上手いわけだけど…。



穂風、がんばれ…。



心の中で応援するしかできない。



だが、残り時間が半分になったあたりから、体が慣れてきたのかいつものような乗り方に。



好調だ。



穂風…。



最後、すごく良い波が来た。



穂風がそれに乗っていく。



ぐっと風に乗るように、戯れるように波に乗る。



髪の毛の先までも穂風が操ってるみたいで。



なんか…すげえもん見たかも…。



会場もかなり沸いてる。



隣のリアムの「Hooo!」とテンションの上がった声が聞こえる。



でも…。



発表された順位…。



穂風は4位だった。



優勝は愛姫。杉下真恋は穂風と僅差で3位で。



だけど、ブランク明けの世界大会で4位なんてそうそう獲れるものではない。



それだけ穂風の実力が高いって証…。



「穂風」



大会終わりの穂風に声をかけた。



穂風は俺を見てにっこり笑った。



「夏葉、あたし、よくやったでしょ?」

「ん、すげえかっこよかった」



そう言って軽く穂風を抱きしめた。



穂風も俺のことを抱きしめ返して。



穂風は強くなった。



穂風の表情、波乗りを見て、完全にスランプを克服したんだと分かった。



「頑張ったな」

「ありがと! 悔しさもあるけど…精一杯やれたよ!」

「お疲れ」

「本当にありがと…。強くなれたのは夏葉のおかげ!」



何言ってんだ…。



穂風がここまで強くなれたのは、穂風自身の力だ。



だけど、少しでも穂風の支えになれたのなら。



俺が穂風のそばにいられて良かったと思う。



「これからも引き続き頑張る! 次は優勝するもんね!」



穂風はそう言ってもう一度俺を抱きしめた。



優勝は逃したが、今回のMVPは確実に穂風だ。



お疲れ、よく頑張った…。
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