海よりも深くて波よりも透明
~穂風~

夏葉と1年以上も離れて暮らすなんて考えられない…。



今だって出張の多い夏葉に寂しく思ってるのに。



だけど、いつも優しくて大人であたしのことを優先してくれる夏葉がこんなに引かないなんて…。



夏葉がどんなに行きたいか分かってる。



あたしばっかり応援してもらって、夏葉のことを送り出せない自分にも嫌になる…。



リアに相談してみた。



「彼氏の進路を応援しないのはダメな彼女すぎる」



厳しく言われてしまった。



そうだよね…。



「ちなみにだけど、リアは郁とどうこうとかないの?」

「あたしと郁は恋愛で結びつかないもっと特別な関係だし」



そうなんだ…。



はあ…。



自分でも意地になってる部分があるのは知ってる。



だけどやっぱり夏葉に笑顔で「行ってきて」なんて言えないよ…。



それからモヤモヤしたまま何日かが過ぎた。



今日は夏葉の新車が納車される日。



あたしは大学があるから納車に立ち会えないけど、新車で迎えに来てくれる。



前の車も思い出深いからかなり寂しいけど。



でも新しい車は夏葉が頑張った結果の結晶だもん。



そうだよね、夏葉は頑張ってる…。



その背中を押すのはあたしの仕事…。



授業が終わって大学を出たら出てすぐのところにデカい車が待ってた。



中には夏葉。



手を振って駆け寄る。



新しい車はSUVのいわゆるアメ車。



カラーはオレンジでかなり目立ってるけどかなりかっこいい。



助手席に乗り込んだ。



前の車は左ハンドルだったけど今回は右ハンドル。



右側に夏葉がいるのが新鮮だ。



「お待たせ!」

「ん」

「車めっちゃいいね」

「な~! かなりテンション上がってる」



夏葉が車を発進させた。



今からドライブスタートだ。
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