海よりも深くて波よりも透明
「お前飯食ってくのか?」

「あ、いいっすか…」

「なんか出前取るわ」



スマホの出前アプリを開いたパパをよそに、あたしは夏葉をソファに座らせてテレビをつけた。



夏葉は「世界の岩崎龍臣が出前取ってる…」って言ってたけど。



あたしには日常の光景だ。



この前合宿で撮影したCMがちょうど流れた。



「夏葉に撮ってもらったやつだ」

「そうだな」



なんて言ってたらママがリビングに来た。



夏葉がテレビを消す。



ママがあたしたちの座ってるのとは反対側のソファにどっしりと座った。



「で? なんか用?」



ママ…。



そんな言い方ある!?



「あ…っとですね、あ~…お二人にちょっとご報告が」



ママとパパが顔を見合わせた。



パパが眉間にしわを寄せてからこっちに来てママの隣に腰かけた。



って、なんか勘違いされてない!?



「まさか子供出来たとかじゃないよね?」



やっぱり!



2人が夏葉のことビビらせるから夏葉が必要以上にかしこまって変な言い方になっちゃったじゃん!



「違います!!!」

「違うの? じゃあ何?」

「いや~…俺、新しい仕事をすることになりまして」



夏葉が2人に説明した。



パパとママは夏葉の新しい仕事を喜んだ。



「良かったじゃん、がんばりな」

「ありがとうございます」

「でもよく穂風が行っていいって言ったね」

「ほんと感謝っす…」



あたしがわがまましたことは言わないでいてくれるんだ。



っていうかママにあたしが許さないって思われてるんだ…。



「報告してくれてありがとね」

「いや、これはちゃんとお伝えしないとと思ったので」

「あんた本当誠実!」



ママが夏葉の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。



何はともあれ、これで夏葉はもう行くのが完全に決まった。



夏葉…。



寂しいけど、がんばってね!
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