海よりも深くて波よりも透明
俺は黙って助手席側の窓を開けた。



「寒っ」

「誰にでもそういうこと言うなっつっただろ。頭冷やせ」

「は~い…」



渋々という感じで、窓の方に目をやった穂風。



流れる景色を眺めてる。



分かればいいんだ、分かれば。



しばらく外を眺めていた穂風は、窓を閉めてこっちを見た。



「なんか音楽ないの?」

「あ~、スマホ連携して適当にかけていいぞ」

「夏葉の好きな曲聴かせてよ」

「じゃ、ナビん中入ってっから適当に操作してかけろ」



穂風がナビを操作して曲をかける。



流れた曲は静かな洋楽。



アコギの音が静かに車内に響いた。



「これ誰?」

「ニール・ヤング」

「いいね、好き」



東京の夜景はアコギの音と共に静かに後ろに流れていく。



2人とも何も言わない。



この感じ、なんか落ち着くな。



たまに少し会話を交わす。



穂風はいつも屈託のない笑顔だ。



湘南エリアに入った。



穂風の家まで、あと少し…。



なんだか猛烈に、離れがたい気がする



頭がブレーキをかけるようにしきりに思考を止めようとしてくる。



だけど、思考を止めたのは逆効果だったみたいだ。



何も考えられなくなった俺は口を開いた。



「門限は?」

「えっ?」

「門限、何時?」

「23時…」



時間は21時少し前。



「22時には帰す」



そう言って、海沿いの道をまっすぐと進んだ。
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