海よりも深くて波よりも透明
途中、ナナが見える。



営業中の店はオレンジ色の灯りがともってる。



ナナを通り越して走る。



穂風が、窓を少しだけ開けた。



冷たい夜風と潮の匂いが入ってくる。



「どうした?」

「ん、ちょっと暑くて…」



暑い?



暖房効き過ぎたか?



助手席の穂風は静かに海を眺めてる。



それから振り返った。



「夏葉の車、左ハンドルだからこっちから海見えていいね」

「あ~、確かにな。まあ逆車線走ってたら見えねえけど」

「今見えるからいいの 」



風になびく穂風の長い髪の毛。



潮風の匂いが合っている。



「あたし、17年間ここに住んでるけど、こんなに夜の海を綺麗って思ったのはじめてかも」



確かに、今日の海は一段と綺麗に見える。



空と海の境界線が分からないほどの漆黒。



星が輝いていて、海は同じくらい波で煌めいている。



「今これどこ向かってるの?」

「とりあえずドライブ。葉山あたりまで行くか?」

「行く!」



隣で嬉しそうなのが伝わってくる。



その声を聞いて俺も自然と笑っていた。



海沿いの国道134号線を走り、鎌倉、逗子を抜けて葉山へ。



特に目的のないドライブなので、ここからは戻るだけ。



時間は21時半。



車をUターンさせた。



「えっ、もう帰るの?」

「そろそろ戻んねえと22時までに帰せねえ」

「門限23時なのに…」

「一応俺大人の男なの。女子高生を門限ギリギリまで連れ回せねえよ」



俺がそう言ったら不満そうな顔をした。



「もうちょっとだけ…」

「…仕方ねえな」



そんな風に言われたら断れね~…。



俺ってだめな大人…。
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