海よりも深くて波よりも透明
「今日…このあと会える?」



いやいやいや…。



「悪いけど…それは無理。彼女いる」

「…そうなんだ」



千咲はそう言って一瞬顔を伏せて裾から手を離した。



えっ、何その反応…。



思いがけない千咲の反応に戸惑っていたら、リアムが「(何してんだ?)」と近寄ってきた。



千咲がリアムにぺこっとお辞儀をする。



「(誰? カワイイね。夏葉の浮気相手?)」

「(アハハ。元カノです)」

「(まじ? 夏葉も隅に置けねえな)」



そんなこと言いながらなぜか連絡先を交換していた。



なんか嫌な予感…。



それから千咲とは別れた。



多分もう…会わないはず。



にしてもすげえ偶然だったな…。



俺の夢のために遠距離になって別れた元カノが、自分の夢のために頑張ってることが分かって、それはまあシンプルに嬉しかったけど。



穂風に言ったら死ぬほど嫉妬しそうだ…。



穂風に今日のことを言うかどうかめちゃくちゃ悩んだ。



言っても不安にさせるだけだろうし…。



特に最近は愛姫たちの破局で余計動揺してると思う。



だけど穂風に隠し事するのもな…。



うーん…。



言うか…。



その日の夜に穂風に電話した。



向こうは昼過ぎか…。



≪もしもし?≫

「ん、今大丈夫か?」

≪あとちょっとで授業始まるからちょっとだけ!≫

「そう…あのさ」

≪ねえ聞いてよ! 今日学食でさ~≫



穂風がペラペラと他愛もない話をマシンガントークしてくる。



のんきだな…。



話を聞いてたら≪あ、先生来た! じゃあね大好き!≫と一方的に言って電話を切られた。



まあいいか…。



わざわざ文章で話すような内容じゃねえし。



また次の機会に…。
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