海よりも深くて波よりも透明
海岸脇に車を停めて浜辺に降りた。



穂風が靴を脱いで海に向かって走る。



「海~!!」



そう言って楽しそうにはしゃいでる。



そんな穂風は見ていて気持ちがいい。



穂風が波に足を入れた。



「冷たっ」

「そりゃ冷てえだろ」

「夏葉~…おりゃっ」

「おい!」



足で水かけてきやがった…。



俺も応戦。



波には入らず、波打ち際ギリギリで穂風と距離を詰めて追い詰める。



穂風は楽しそうにキャーキャー言って俺から逃げてる。



穂風が、逃げながら砂浜につまずいた。



「あっ…」



穂風がよろめく瞬間、とっさに両手で穂風の両肩を掴んだ。



セーフ…。



って、この距離…。



肩に触れたまま、俺と穂風の間は鉛筆一本分。



2人の空気が一瞬止まって、夜の潮風だけが俺らを揺らした。



俺より頭一つ分背の低い穂風が俺をじっと見つめてる。



冷たい波が俺の足元に来て我に返った。



「…そろそろ帰るか」

「うん…」



帰りの車はほぼ無言。



でも、社内に流れる洋楽が2人を繋いでいるような気がした。



結局穂風の家に着いたのは22時を少し回った時間。



めちゃくちゃデカい家の門の前で穂風を下ろした。



白が基調の、まさに豪邸という感じの家。



家族3人でとんでもない額を稼いでるんだろう。



家だけじゃなく敷地そのものが広い。



ここが岩崎龍臣と川村そよ子の家…。



「今日はありがとね、色々と」



穂風が少しかがんでウィンドウから顔を覗かせて言った。



「ん、またな」



俺がそう言うと、穂風は手を振って家の中に入って行った。



ふー…。



俺は家の前で1人ハンドルに顔をつける。



ちょっとこれはやばいかもしれねえ…。



脳みその細胞が…穂風を好きだと囁きかけてくる。



まだ高校生のガキで、タイプでもなんでもねえ上に恐らく相手にされてねえのに…。



穂風を好きだと、はっきりそう認識してしまった。



前途多難…。 
< 29 / 52 >

この作品をシェア

pagetop