海よりも深くて波よりも透明
「夏葉、こんな若い子と付き合ってるの? なんで? 全然タイプじゃなくない?」

「タイプとか関係ねえから。穂風は穂風。人生で唯一、本気で惚れた女なんだよ」

「だけど、あたしと付き合ってたときだってちゃんとあたしのこと好きだったでしょ?」

「その好きと、今の好きは次元が違う」

「じゃあどうやって諦めればいいの…? 本当に好きなの…」



そんなの俺に言われても困る。



俺はいま誰も入り込めないくらい穂風のことしか考えられない。



千咲がしとしとと泣き始めた。



まじで困る…。



そう思ってたら、いきなり穂風が目の前の水を千咲にぶっかけた。



「夏葉がこんなに無理って言ってんじゃん。あたしの夏葉困らせないでください」



穂風…。



すげえ女だ…。



「夏葉のこと好きな気持ちは分かりました。だってこんな良い男だもんね。でももうあんたのこと1mmも考えてないの。人の彼氏に縋ってないで他当たってよ」

「なんなの!? 何様のつもり? 夏葉のこと好きで何が悪いの? あたしの方が昔から夏葉のこと知ってるんだよ、別れてよ」

「は? 夏葉があたしがいいって言ってんじゃん。諦めの悪い女だね」



穂風がそう言ったら、今度は千咲が穂風に水をかけようとした。



俺はとっさに千咲の腕をつかんでそれを止めた。



「おい」

「…」

「俺の大事な彼女に何してくれようとしてんの? 俺、本当に穂風以外に関心ないから。まじで諦めて」



千咲は俺の言葉に黙ったまま、目に涙を溜めて席を外して店から出て行った。



ようやく諦めてくれたか…?



穂風が俺の肩におでこをつけた。



「怖かった…」

「穂風…」

「元カノとか本気で無理。夏葉の過去を知ってる人なんていらないのに…」

「ごめんな…」

「夏葉悪くないもん…。意地張ってごめん…」



とにかく穂風の頭を撫で続けて。



悲しい思いさせてごめん…。
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