海よりも深くて波よりも透明
そしてそんなある日、愛姫が突然日本にやってきた。



花枝さんにコーチングしてもらうって言ってたけど、多分目的は悠星くん…。



愛姫に誘われて、一緒にナナに行った。



なんとなく店内を見回す愛姫。



悠星くんのこと探してるんだな…。



ハタチになったあたしと愛姫は軽くお酒を注文し合った。



「元気だった?」

「…ううん」

「そっか…」

「悠星は…ゲンキ?」



あたしはなんて言ったらいいか迷う。



悠星くんも同じく元気じゃないと思う。



だけど軽々しく言っていいのかな…。



「あたしもあんまり会ってないんだよね」



あいまいに返した。



「悠星にあいたい…」



そのとき、店のドアが開いた。



思わずドアの方を見ると…悠星くん…。



悠星くんが先に愛姫に気が付いて、一瞬足を止めた。



愛姫は、はじめ気が付かなかったけど、あたしが店先に目をやっているのを見て、同じくドアの方に目を向けた。



愛姫が悠星くんに気が付いて固まった。



それから立ち上がる。



「悠星…」



そう言って悠星くんに向かって駆け出した。



周りが何も見えてないみたいに。



悠星くんに強く抱き着いた。



「あいたかった…」



愛姫の言葉に、悠星くんも愛姫を抱きしめ返す。



「ん、俺も…。ごめん、寂しい思いさせて…」

「わかれるなんてイヤ…。いっしょにいて…」



愛姫はめちゃくちゃ泣いてる。



「もうわかれるなんていわない…」

「うん、2人で一緒にいられる方法を考えよう…」



店内の客は2人に釘づけだ。



ゲンさんが優しい顔をしながら2人に近づいた。



「はいはい、店先だからほかのお客さん入れなくなっちゃうから。中入りな、なんかサービスしてやるから」



そう言って2人の背中を押しながら店の奥に入れた。



あたしのところに戻ってくる愛姫。



目に涙を浮かべながらあたしに微笑んだ。



「アタシ…なんとか一緒にいられるようにがんばってみる…」



あたしは愛姫に微笑み返した。



「応援してるよ!」



良かった…。



実際、2人の間にある問題が遠距離だけなら、きっといくらでもずっと一緒にいられる方法があるよね。



2人がこんなに苦しんだんだから、このあとにあるのは幸せだけであってほしい。



これだけ苦しむくらいお互いのことが好きなんだから。



2人の幸せを心から願った。
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