海よりも深くて波よりも透明
でも、俺が何か言おうとする前に、彼女の方が「ありがとね」と言った。



そのまま海に引き返した彼女は、途中で止まって俺の方を振り向いた。



ん?



「写真、かなり気に入った!」



残された俺は、呆然…。



またすぐに波に乗り始めた彼女をしばらく見つめていた。



新居に行くと、引っ越し作業は完全に終わっていた。



はっきり言ってボロい、2階建て木造アパートの2階、204号室。



カメラマンは儲からない。



特に、サーフフォトグラファーなんてニッチな職種の収入なんて雀の涙だ。



その中でもすごい人はもちろんいる。



大物のプロサーファーをガンガン撮って、芸術性もすげえ高いカメラマン。



俺は、そんなデカいカメラマンになるのが夢。



部屋の段ボールたちの中から、ひときわデカい段ボールを開ける。



愛用のサーフボード。



それからもう一つ同じ大きさの段ボールも。



こっちもサーフボード。



2本とも、すげえ大事にしてるボードだ。



天井近い位置にラックを設置してサーフボードをかけた。



1本目は、山吹色で青の縁取りのボード。



もう1本は、水色にカワセミが一羽描かれているボード。



こっちはタツ・イワサキブランドのまじで高いやつ。



タツ・イワサキとは、サーフ界でレジェンド的な存在である岩崎 龍臣(いわさき たつおみ)のサーフブランドだ。



岩崎龍臣はまじでかっこいいしすげえ憧れるサーファー。



写真集とかも持ってるくらいには憧れてる…。



サーフィンの板には、ロングボードとショートボードの2種類があり、岩崎龍臣はロングボーダー。



だから俺もそれに憧れてロングボードをやっている。



ん? 岩崎龍臣…?



待て待て、今日会ったあの女、どこかで見た顔と思ったけど、岩崎龍臣の娘の岩崎 穂風(いわさき みかぜ)…?



乗ってたのもロングボードだったし、何よりあの上手さは絶対にそうだろ…。



調べてみた。
< 3 / 328 >

この作品をシェア

pagetop