海よりも深くて波よりも透明
今日は思い切り穂風のことを抱きしめて眠ると決めている。



久しぶりに着いた我が家。



この一年の間も、穂風がたまに来て管理してくれていた。



引き払っても良かったが、更新期限が残っていたのと、物置として残しておきたくて。



家に入って荷物を置くと、穂風がせっせとお茶の準備をしてくれた。



「穂風、ちょっと抱きしめさせろ」

「はい!」



穂風がニコニコと嬉しそうに俺の膝に座る。



俺はそんな穂風をつぶれるんじゃないかというくらい抱きしめた。



「疲れた体に染み渡るな…」

「あはは、あたしってアルコール?」

「お、酒飲めるようになったからっていっちょ前に酒に例えてきたな」

「そんなんじゃないよ~」



こんな話しながらも穂風のことは抱きしめたまま。



相当俺も穂風に惚れてんだ…。



「夏葉とまだ一緒にお酒飲んだことない! 今から飲む?」

「いや…」



俺はまだ酒に酔うわけにはいかない。



穂風のことを抱きしめたまま、頭を軽く撫でる。



穂風の手を触って、爪を撫でるようにいじる。



この小さな爪が、指が、手が。



すべてが愛おしい…。



穂風の肩に手をやって顔を軽く離した。



真剣な表情で穂風を見る。



きょとんとする穂風の顔にかかる髪を手で軽く払った。



「穂風」

「なあに?」

「穂風が大学卒業したら…俺と結婚してくれるか?」



そう言って、ポケットに用意していた小さい箱を取り出す。



中にはダイヤの指輪。



穂風が驚いた顔で、俺と指輪を交互に見た。



それから目に涙を溜める。



「本当に…いいの?」

「穂風じゃなきゃ嫌だ」

「あたし、わがままだよ?」

「そこも含めて…愛してる」

「夏葉!」



そう言って俺の首にぎゅっと抱き着いた。
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