海よりも深くて波よりも透明
「夏葉、一応穂風の好きなところ聞かせてよ」



ママが唐突に言った。



でもあたしも聞きたいな…。



「まあぶっちゃけ全部なんですけど。穂風のまっすぐで一生懸命なところを尊敬しています」



夏葉はママのいきなりの質問にも動揺せずに答えてくれた。



嬉しいな…。



「ありがと。穂風のこと、本当によろしくね」

「はい。大切にします。穂風のこと、育ててくださってありがとうございました」



その日はそれで終了した。



次はあたしの番だ…。



別の日に、夏葉の親御さんにも挨拶しに行く。



まずはお母さんとお姉さんのところに。



緊張する~…。



夏葉の実家に向かう車の助手席に座るあたしの頬を、夏葉が軽くつねった。



「何するの…」

「緊張してる顔がかわいいなと思って」



むう~…。



冗談じゃなく本気で緊張してるのに~…。



夏葉もあたしの両親に挨拶に来るときこんな気分だったのかな…。



なんて話せばいいのかな…。



一回会ったことあるけど、もし反対されたらどうしよう!?



そんな悪い考えがぐるぐると巡って、なんだかちょっと吐き気を催してしまった。



「おいおい…大丈夫かよ」



夏葉が高速道路のSAで車を止めて、水を買ってくれる。



「お前は本当に緊張に弱いな…」

「結婚の挨拶は桁違いの緊張だよー!」



夏葉に背中をさすられながら一息。



ふう…。



「よし、もう大丈夫」

「平気か? 無理すんなよ」

「大丈夫! 行ける!」



そして着いた夏葉の実家。



車の止める音が聞こえたのか、中から前に会ったお姉さんとお母さんが出てくる。



あたしは慌てて車から降りてお辞儀した。
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