海よりも深くて波よりも透明
回り込んで正面から夏葉を仰ぎ見た。



「おはよ!」

「うおっ、びっくりした」



夏葉は驚いた顔をしてから、あたしを認識して耳のイヤホンを外した。



音楽聴いてたのか…。



「はよ」

「何してんの?」

「これから仕事なんだよ。MAKANAの撮影」



あ、悠星くんか。



あたしも仕事を口実に夏葉に会いたい…。



「何聴いてたの?」



あたしが聞いた。



夏葉に対して知りたいことがたくさんある。



夏葉は、返事の代わりに、片耳のイヤホンをあたしの耳にさした。



夏葉の指が耳に触れる。



ドキドキする…。



イヤホンから聴こえてきた心地よい男性の声と英語の歌詞。



あ、これ…。



「ニール・ヤング?」

「よくわかったな」

「この前車で聴いていいなって思ったから自分でも色々聴いてみた~」



夏葉が好きなものはなんでもいいなって思ってしまう不思議。



もちろん好みの雰囲気の曲ではあるけど。



だけど、夏葉が好きだっていうからあたしも大好きな曲になってしまった。



「曲名なんだっけ」



あたしがそう言うと、夏葉はスマホを出した。



画面を開いて、あたしの真横に立って曲名を見せてくれる。



すぐ隣から夏葉の体温を感じる。



気持ち悪くなるくらいにドキドキ。



それを紛らわすように、画面をのぞき込むようにして見た。



「あ、そうだった。他にもおすすめある?」

「ん~。これとか」



浜辺に腰かけて、しばらく2人で、一つのイヤホン、一つの画面。



肩が触れ合うくらいに距離が近い。



死ぬ…。
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