海よりも深くて波よりも透明
「じゃあ夏葉、あたしそろそろ待機行くね!」

「おう、がんばれよ」

「うん! 優勝するよ~」



試合前の穂風を送り出す。



最近の穂風は前よりもかなり身軽そうだ。



それは物理的な意味よりも心理的な意味で。



大きな試合前も前みたいな緊張をしなくなった。



自然体というか…。



俺はそれがすごく嬉しい。



穂風は宣言通り優勝した。



「夏葉~!」

「おめでと」



俺の胸に飛び込む穂風を抱きしめた。



スランプ後、大きい大会では2位とか3位とかで優勝を逃してきた穂風だったが、ここにきてようやく世界選手権での優勝は、穂風のキャリアにとっても意味の大きいことだ。



本当に良かった…。



ちなみに、愛姫は2位、杉下真恋は今回調子が振るわず5位という結果だった。



でも、穂風にはほかの選手の順位はもう気にならないみたいだった。



自分の結果だけを真摯に受け止める姿勢になったらしい。



試合が終わった穂風は、しばらく韓国で波乗りをすると言ってた。



「ミニとショート(※ショートボード)するー!」



らしい。



まあたまには羽を伸ばしてもらって…。



俺も日本以外の色んなところで写真を撮りに行く。



夫婦になっても、お互いの仕事には理解を持ってて。



『会いたいよ~』



という連絡は毎日来るが。



そんなところは変わらなくて愛おしい。



俺も穂風に現地で撮った写真を送ったり…。



「ただいまー!」

「ん、おかえり」



そして、同じ家に帰る。



これが今の俺たちの一番の幸せだ。
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