海よりも深くて波よりも透明
~穂風~

季節は夏になり、4年ぶりのオリンピックがやってきた。



オリンピックといえば、あたしが完全に挫折をしてしまった舞台…。



因縁の試合とも言えるそれは、最近大きな試合でも緊張しなくなったあたしにもやっぱりちょっと緊張を与えた。



「夏葉…あたし大丈夫かな…」



家のソファでテレビを見ていると、オリンピックのニュースも入ってくる。



夏葉にくっついて、不安げに夏葉の方に顔を向けると、おでこにキスしてから頭を撫でられた。



「不安か?」

「うん…トラウマみたいなもんかも…」

「最近穂風はかなり調子良いからな~。この勢いで五輪でも優勝すんぞ」



そう言って優しく笑った。



あたしは夏葉にさらにすり寄った。



夏葉大好き…。



『夏のオリンピックではサーフィンの種目も!』



テレビのアナウンサーの言葉に、画面があたしの写真に切り替わった。



うわっ、びっくりした…。



ほかにも悠星くんとか真恋とかの写真も映し出される。



「どうせ使うならもっと綺麗なフォームのやつ使ってよ~」

「編集した人、サーフィンのことなんも分かってねえな!」



なんて言いながらあたしの心がほどけていくのを感じる。



よし、雪辱試合だ! 頑張ろう!



そしてオリンピック当日がやってきた。



「穂風さん! 今日はよろしくお願いします~」



そう言って近寄ってきたのは真恋。



4年前はこの子への不安も大きかった。



大丈夫大丈夫。



あたしはもう強いから。



それに、メンタルも含めてあたしの実力だから。



あたしは強いよ!



順調に勝ち進んでいくあたし。



そして、最終ラウンドになった。



奇しくも、最終ラウンドでは真恋と同じヒート。



真恋との一騎打ちは初めてだ…。
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