海よりも深くて波よりも透明
それからあたしはロングとショートの併用をはじめた。



ロングとショートは波の乗り方が違うから、どちらも本格的にやるとなると技術が必要で難しい。



それでも昔から両方やってきてはいるから、どちらも技を磨くのみだ。



新たな目標に向かうってすごく良い気分だ。



色々なショートの大会で順調に成績を伸ばすあたし。



業界でも多分いま一番注目されているんだと思う。



ショートはロングに比べて大会の数も多いから色んな場もたくさんこなしてきた。



充実した日々だ。



雑誌のインタビューとかも増えた。



「いま穂風さんが考えている理想の姿はどういうものですか?」

「やっぱり、自然体の自分でいられるサーフィンをすることですね。ご存じの方もいらっしゃると思いますが、何年か前にすごく自信をなくした時期があって…。その頃の私は、もちろんサーフィンは大好きなのは前提ですが、試合となると肩肘張ってしまっていて。あまりにもプレッシャーと不安が大きくてバランスを崩してしまったのですが、今はありのままの自分で、ただ波と戯れることを考えて毎日波に乗っています」

「なるほど。その自信をなくした時期はどう乗り越えていったんでしょうか?」

「周りにいる人たちが、とにかく『穂風の好きなようにしたらいいよ』と支えてくれて。まさにあたしを自然体でいられるように支え続けてくれたから、自然とまたサーフィンをしたいと思うようになりました」



改めて考えると、あの時期の夏葉は本当にあたしにとって救いみたいな存在だったな。



もし夏葉がいなかったら今頃どうなってたんだろう。



腐ったまま、サーフィンの世界にも思うように戻れていなかったかもしれない。



夏葉はあたしにとってのヒーローだ。



「ご家族は穂風さんにとってどのような存在ですか?」

「両親も夫も、あたしにとってはとても大事な存在です。小さい頃から親の存在ありきで周りから見られてきて、そのプレッシャーと、『あたしはあたしなんだ』というプライドと常に戦っていて辛かった時期もありますが、今は親の存在があってこその自分ということも受け止めて、その上で、自分のサーフィンをしようと思っています」



今はこうやって親のことも堂々と話せるようになった。



昔だったら、『親とあたしを比較しないで!』という気持ちが強すぎて、こういうインタビューでも「親は関係ないですから」と突っぱねていた。



サーフィンを小さい頃から教えてくれた親に感謝も素直にしてるよ。
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