海よりも深くて波よりも透明
それからもあわただしくも充実した日が続き…。



4年ぶりのオリンピックがはじまった。



穂風はこの前の世界選手権でロングの部で出場し優勝している。



このオリンピックではショート部門で出ることになっているので、もしここで優勝したら、穂風は前代未聞のロングとショート両方の世界王者の冠をかぶることになる。



業界でも注目が穂風に集まっている。



どの国のスポーツメディアでも穂風の話題。



これはプレッシャーがすごい…と思いきや、当の穂風は涼しい顔。



「アハハ、これあたしの変な顔使われてる」



スポーツ新聞を見ながらへらへらと笑ってる。



強くなったな…。



「これ、あたしが優勝したら大スターだよね?」

「そうだな」

「そしたら夏葉もう一生働かなくていいよ。あたしが養ってあげる」

「ははっ、そのときはよろしく」



それから、軽くウォームアップした穂風は「よし! 行ってきます!」と、サーフボードを持って海に向かっていった。



ショートボードの優勝候補の一人、キム・ミンヒは穂風とは良いライバル。



今回の大会はもしかしたら穂風よりもプレッシャーが強いかもしれない。



前に一度会ったとき、「(ミカゼと一緒にショートで遊んだせいで自らライバルを一人増やしちゃった)」と笑ってた。



はじまったショートの試合。



ショートは全体的に派手な技が多くて見ごたえがある。



撮影を続けていたら穂風のヒートになった。



穂風は他のどの選手にも負けないくらい良い波乗りを見せてくれた。



そして…。



ついに…。



「夏葉~!!」



オリンピック、ショート女子部門。



金メダルを手にしたのは穂風だった。



俺のところにまっすぐ走ってきて俺に飛び込んできた穂風。



「お前は…ほんっとにすげえな!」



穂風は前代未聞をやり遂げた。



色んなメディアも大興奮で穂風からついて離れない。



それでも一番良い穂風の表情を撮れるのは俺だ。
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