海よりも深くて波よりも透明
「リアの勝ちってこと~?」



穂風が悔しそうにそう言うと、リアルは花火に視線をやったまま無言でピースした。



「あ~っ、マジで悔しい」

「負けず嫌いだな」

「あたしは超~負けず嫌いだよ」



さすがだな…。



だからこそ一流アスリートとして活躍できてるんだろう。



尊敬できる。



そんな部分は、ガキだと言って茶化せねえよ。



リアルの線香花火が落ちた。



リアルが誇らしげな顔をしてる。



「あたしの勝ち~!」

「もう一回戦って言いたいところだけど、もうないね」

「んじゃー帰ろ~」

「あ、ちょっと待って。あたしトイレ行きたい」

「あーい」



穂風が立ち上がった。



海岸についてる公衆トイレの方向に歩いていこうとする。



いや、まてまてまて。



穂風の腕をつかんだ。



「えっ? なに?」

「公衆トイレ、あぶねえだろ」

「そうだけど~…。今行きたいんだもん」

「ほら、一緒に行くぞ」



穂風の腕を引いて強引に歩く。



リアルは「いってら~」と手を振ってる。



トイレまではそう遠くない。



この時間に海岸に一人でリアルを待たせるのも普通に心配だが、ここからならちょうど見える。



やべえ奴がいないかどうかトイレの中を確認してから外に出て穂風を待った。



外でスマホをいじって待ってたら、リアルが向こうから歩いてきた。



あいつもトイレか?



と思ったが、リアルが俺の正面に立ってニヤッとした。
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